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那覇地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決

那覇市松尾一丁目一五番三七号

甲事件原告

池原茂男

右訴訟代理人弁護士

大田朝章

那覇市樋川一丁目一番一一号ライオンズマンション開南大通り二〇六号

乙事件原告

備瀬ツル子

同所同マンション二〇五号

乙事件原告

備瀬知健

右両名訴訟代理人弁護士

高梨克彦

新里恵二

右訴訟復代理人弁護士

大田朝章

那覇市旭町九番地

甲・乙事件被告

那覇税務署長 上運天敏男

右両事件被告指定代理人

齋藤博志

白濱孝英

中尾重憲

那須誠也

友利勝彦

宮城朝章

神里安則

主文

一  甲事件原告及び乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、甲事件原告及び乙事件原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

被告が、昭和六二年一一月三〇日付けで、原告池原茂男(以下「原告池原」という。また、乙事件の原告二名と併せて「原告ら」ということもある。)の昭和五九年分所得税についてした更正処分のうちの短期譲渡所得額八四四八万九七〇〇円、税額五一八二万一〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

二  乙事件

被告が、昭和六二年一一月三〇日付けで原告備瀬ツル子及び同備瀬知健の被相続人備瀬知良(以下「訴外知良」という。)の昭和五九年分所得税についてした更正処分のうち短期譲渡所得額八四四八万九七〇〇円、税額五一六八万八七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  訴外知良は、昭和四二年四月一八日ころ、訴外青山ヤエから、同人らが相続して共同所有する那覇市壷川赤畑原二一番一外八筆の土地(以下「本件土地」という。)につき、その所有権回復及び土地管理等(不法占拠者から本件土地を取り戻すこと等)の依頼を受け、これを受任した(以下「本件土地管理契約」という。)。

訴外知良は、これに関する訴訟の追行を弁護士である原告池原及び訴外仲宗根信秀(以下「訴外仲宗根」という。)に委任した(以下「本件訴訟委任契約」という。)。

原告池原及び訴外仲宗根は、同年一〇月三〇日ころ、訴外青山ヤエら共同相続人の訴訟代理人として、本件土地が右共同相続人の所有であることの確認、真実に反する所有権保存登記、所有権移転登記及び抵当権設定登記の各抹消登記手続並びに建物収去土地名明渡を求める訴え(以下「本件第1次訴訟」という。)を提起したが、昭和五〇年一〇月三日の上告棄却の最高裁判決(以下「本件最高裁判決」という。)によって、訴外青山實、同江口光江、同中島文子及び同青山妙子(以下「本件土地共有者」という。)ら共同相続人の全部勝訴が確定した。

2  本件土地は、昭和五九年六月三〇日に代金一一億円で売却され、訴外知良は、同年七月一一日ころ、右代金の内から五億五〇〇〇万円を受領し、同月一二日ころ、その中から、原告池原及び訴外仲宗根に対し、それぞれ右代金額の約六分の一に当たる一億八〇〇〇万円を支払い、自分は一億九〇〇〇万円(以下これらを「本件各受領金」という。)を取得した。

3  訴外知良は、昭和五九年分の所得税の確定申告書に、分離課税の短期譲渡所得(以下「譲渡所得」という。)の金額を八四四八万九七〇〇円、納付すべき納税額を五一六八万八七〇〇円と記載して、昭和六〇年三月一五日に申告した。

また、原告池原は、昭和五九年分の所得税の確定申告書に、その他の事業所得の金額を一億七九七七万四一三五円、給与所得の金額を五五万六五五〇円、納付すべき税額を一億一三五五万七一〇〇円と記載して、昭和六〇年三月一二日に申告したが、その後、法定申告期限である同月一五日に、譲渡所得の金額を八四四八万九七〇〇円、給与所得の金額を五五万六五五〇円、納付すべき税額を五一八二万一〇〇〇円と記載した訂正の申告書を提出した。

4  被告は、訴外知良及び原告池原らが取得した本件各受領金は、訴外知良については所得税法(昭和四〇年法律第三三号)三五条に規定する雑所得に、原告池原については同法二七条に規定する事業所得に当たり、右収入金額は、本件土地が売却・換価されて本件土地管理受託業務が完了した昭和五九年六月三〇日に計上すべきであるとして、昭和六二年一一月三〇日付けで、訴外知良に対しては、雑所得の金額を一億九〇〇〇万円、譲渡所得の金額を零円、納付すべき税額を一億二〇八四万七五〇〇円とする更正及び国税通則法(昭和三七年法律第六六号、以下同じ。)六五条二項に規定する過少申告加算税の額を四三三万一〇〇〇円とする賦課決定を、原告池原に対しては、その他の事業所得の金額を一億七九七七万四一三五円、譲渡所得の金額を零円、給与所得の金額を一一六万七八〇〇円、納付すべき税額を一億一四一五万九八〇〇円とする更正(以下訴外知良に対する更正と併せて「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を三六四万円とする賦課決定(以下訴外知良に対する過少申告加算税賦課決定と併せて「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)をした。

5  原告池原及び訴外知良は、被告が行った本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分を不服として、それぞれ昭和六三年一月二五日付けで被告に対し異議申立てを行ったが、異議申立て後三か月を経過してもなお異議決定がされなかったため、同年四月三〇日にそれぞれ審査請求を行ったところ、国税不服審判所長は、平成三年一月一六日付けでそれぞれ棄却の裁決をした。

6  訴外知良は、平成三年一月一七日に死亡し、乙事件原告備瀬ツル子及び同備瀬知健がこれを相続した。

二  争点

原告池原及び訴外知良が本件土地管理契約もしくは本件土地訴訟委任契約に基づく報酬を得たのはいつか(どの年度分に帰属するか)、その報酬は土地の持分であるか、それとも本件土地の売却代金の一部であるか。

1  原告らの主張

昭和四二年ころ、本件土地管理契約締結の際、訴外知良は、訴外青山ヤエら共同相続人との間で、本件土地の二分の一の持分を右管理契約の報酬とする旨約束し、その支払時期を、本件土地について管理目的をおおむね達したときと定めた。

また、訴外知良、原告池原及び訴外仲宗根の三人は、訴外知良が所得する報酬の各三分の一相当分をそれぞれ取得する旨約束した。

それゆえ、本件最高裁判決により本件土地共有者の勝訴が確定した昭和五〇年一〇月三日には、原告池原及び訴外知良は、本件土地所有権の六分の一の持分をそれぞれ報酬として取得したものである。本件各受領金は、既に報酬として受領していた本件土地の持分の売却代金であるから、昭和五九年分の短期譲渡所得として申告した。

2  被告の主張

本件土地管理契約及び本件訴訟委任契約に基づく業務は、昭和五九年六月三〇日に本件土地が売却されるまで継続していたのであり、右各契約に基づく各報酬を収入として計上すべき時期は、本件土地が売却されて本件土地に関する一連の争いが解決し、訴外知良及び原告池原の各委任業務が終了した日と解すべきであるから、昭和五九年の所得に帰属する。

訴外知良は、本件のような土地管理委任業務を業とする者ではないから、訴外知良の受領金は雑所得に該当し、原告池原は、本件訴訟委任契約に基づいて弁護士業務を遂行したから、原告池原の受領金は事業所得に該当する。

第三争点に対する判断

一  各項記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  本件土地管理契約に関する昭和四二年四月一八日付けの訴外青山ヤエの署名押印のある委任状(甲イ第六号証)には、「私儀那覇市字樋川二九番地備瀬知良を代理人として左記の権限を委任する。拙者所有の那覇市壷川赤畑原の土地の取得の件に就ての一切」との記載がある。

2  本件土地は、国道に接する部分と奥に位置する部分とで価値にかなりの格差があり、地形も変形で起伏があったため、現物を分割するのは困難であり、この点は、原告池原、訴外知良及び本件土地共有者も十分認識しており、また、本件土地共有者はいずれも沖縄県外に居住しており、本件土地を分割した上で右土地を直接利用しようと考えていた者はおらず、結局、本件土地に関しては、現物分割するのではなく、いずれ右土地を売却・換価することが予定されていた(甲イ第七ないし第九号証、第一六、第二〇号証、乙第一一、第一二号証、証人仲宗根香代子及び同青山實の各証言)。

3  昭和五一年二月二〇日付けの本件土地共有者の各署名押印のある「代理人報酬に関する件」と題する書面(甲イ第一〇ないし第一二号証)には、それぞれ「沖縄県那覇市壷川赤畑原二一番の一ないし九の土地に関する第一審、第二審の代理人報酬は、土地管理人備瀬知良との契約に基づき土地管理人備瀬知良に於て支払うものとし、青山實、江口光江、中島文子、青山妙子には、その支払いの義務がないことを明らかに致します。」旨記載されているが、訴外知良らに対する報酬は既に支払済みであるという旨の記載はない。

4  昭和五一年二月二〇日付けの本件土地共有者の署名押印のある各「誓約書」(甲イ第七ないし第九号証)には、それぞれ「本件土地共有者は、本件土地の所有権確認、現名義人からの所有権移転登記、現占有者からの土地明渡請求に関する一切の権限を貴殿に委任した。この度、本件土地について所有権確認、所有権移転登記、土地明渡しの勝訴判決を得たので、右判決を執行し、所有権移転登記及び土地明け渡しが完了した後、貴殿に於いて、本件土地を那覇市に於ける時価をもって売却または換価し、その対価の二分の一を貴殿の土地管理報酬として支払うことを誓約致します。」旨記載されており、右書面の作成時点では、訴外知良に対し、本件土地管理契約の報酬が支払われていないことが前提となっている。

5  昭和五六年四月一三日付けで、本件土地共有者の共有名義で所有権保存登記がされているところ、原告池原や訴外知良の氏名は、共有者として記載されていない。

6  本件土地上には、第一次訴訟の被告以外にも占拠者が存在していたため、原告池原及び訴外知良は、本件最高裁判決後も、本件土地上に存在していた建物その他の構築物等を収去させるため、昭和五六年六月九日に建物収去土地明渡請求訴訟を提起し、右訴訟は昭和五九年七月六日に終了している(右事実は、当事者間に争いがない。)。

7  本件土地に関する昭和五九年分の固定資産税は、訴外青山妙子外三名の名義で納められているところ、少なくとも原告池原は、昭和五〇年分以後の本件土地に関する固定資産税を支払っていない(甲イ第一九号証の一ないし六、証人仲宗根香代子の証言)。

8  本件土地は、昭和五九年六月三〇日付けで売却されているが、その売買契約書(甲イ第五号証)には、売主として原告池原、訴外知良及び訴外仲宗根の氏名は記載されていない。

二  以上の認定事実並びに甲イ第一〇ないし第一二号証の「代理人報酬に関する件」と題する書面は、所有権確認訴訟に伴う弁護士業務報酬の支払いは訴外知良が行い、本件土地共有者は関知しない旨を確認したものであり、本件土地の共有持分を訴外知良に対する報酬として提供することを定めているとは解されないこと、また、甲イ第七ないし第九号証の誓約書は、本件最高裁判決の確定後、本件土地の当時の名義人からの所有権移転登記手続、占有者からの本件土地の明渡し及びその処分が原告池原や訴外知良の受任事項であり、訴外知良及び原告池原らが本件土地を売却・換価したときに、土地管理報酬として、その売却代金の二分の一を支払う旨が約束されたと解されること(現実に、訴外知良らは、昭和五六年六月九日、本件土地に関し、建物収去土地明渡請求訴訟を提起し、昭和五九年七月六日には和解し、また、本件土地の売買の仲介もしていることは、当事者間に争いがない。)、他方、前記のとおり、訴外知良及び原告池原らは、右勝訴判決に基づく登記手続において、本件土地共有者と訴外知良や原告池原、訴外仲宗根の共有名義にせず、本件土地の売買契約に当事者(売主)として名前を記載しておらず、また、本件土地の持分の取得を昭和五〇年分の税務申告の際に申告したことがうかがわれないなど、昭和五〇年に本件土地の持分を委任業務の報酬として取得した者なら通常とるべき行動をとっていないこと、本件最高裁判決後に原告池原らが行った訴訟活動等につき、本件土地の持分に応じた支払いとは別個に、何らかの報酬が支払われた事情はうかがわれないが、このことは、右判決後の活動も当初の依頼の内容に含まれていたと解するのが自然であること等に照らせば、訴外知良及び原告池原らは、訴外青山ヤエから、本件土地の取戻しを依頼され、右取戻しは、登記名義の回復等のみにとどまらず、本件土地の売却・換価を目的として、事実上の不法占拠者の排除等をも含むものであったのであり、その報酬は、右目的を実現したことに対するいわゆる成功報酬で、本件においては、昭和五九年六月に相当価格で本件土地が売却されたことにより、訴外知良及び原告池原らは報酬を得ることができた、即ち、同年七月に本件土地の売却代金の一部で報酬の支払いを受けたことが認められる。

ところで、証人青山實の証言には、原告の主張に沿うかのような供述も存するが、その供述内容自体一貫せず、乙第一七号証及び前記認定事実に照らせば、右認定を左右しない。

また、甲イ第一四、第二〇号証及び証人仲宗根香代子の証言には、訴外知良及び原告池原らの報酬は、それぞれ本件土地の持分の六分の一とする約定があるかのような部分があるが、前記のとおり、結局これは、同人らに対する報酬が、本件土地の売却・換価代金の各六分の一に当たる額を支払う趣旨にすぎず、本件土地の持分を報酬として提供する趣旨ではないと解される。

三  訴外知良は、本件のような土地管理受任業務を業とする者ではないので、同人が取得した報酬は雑所得に該当し、原告池原は、弁護士業務として本件土地の管理委任業務を遂行したもので、その報酬は、自己の計算と危険において対価を得て継続的に行われる業務から生じる所得であるから、事業所得に該当する。

したがって、被告が、本件各受領金を、訴外知良について雑所得とし、原告池原について事業所得としてそれぞれ行った本件更正処分は適法であり、また、本件過少申告加算税賦課決定処分についても、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められず、適法である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木村元昭 裁判官 生島恭子 裁判官 高瀬順久)

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